地方独立行政法人大阪産業技術研究所 - 当法人は、(地独)大阪府立産業技術総合研究所と(地独)大阪市立工業研究所が統合し、平成29年4月1日にスタートしました。研究開発から製造まで、企業の開発ステージに応じた支援を一気通貫で提供し、大阪産業の更なる飛躍に向け、大阪発のイノベーションを創出します。

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機能性材料合成研究室

エネルギー変換や環境調和の観点から持続可能な社会の構築に貢献する材料開発を目指し、太陽電池用材料や有機半導体、化成品中間体、触媒などに関連して、ナノカーボンや機能性色素を用いた有機機能性材料の分子設計、合成や物性に関する研究を行っています。
合成に当たっては、『安全に、安価に、かつ環境にやさしく製造するものづくり技術(プロセス開発)』を目指し、計算化学を活用した分子シミュレーションによる効率的な分子設計、マイクロリアクターを用いた実践的な製造技術の構築、光反応を利用した環境調和型合成法の開発など、新しい観点からの合成プロセスの開拓に取り組んでいます。そして広く有機合成技術に関連した分析依頼・相談に対応しています。


担当者

 ・高尾 優子      研究室長
 ・森脇 和之    主幹研究員
 ・岩井 利之      主幹研究員
 ・松元 深       主任研究員
 ・隅野 修平    研究員

対応領域

材料、素材
化成品(医農薬、添加剤、情報記録表示用色素、など)
有機機能性材料(有機半導体、太陽電池材料、フォトニクス材料、機能性色素材料、など)
ナノカーボン材料(フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、など)

技術
反応開発および素材開発(プロセス化学、マイクロリアクター、フロー合成、光反応、など有機合成全般)
計算化学を利用したシミュレーション(物性予測、三次元分子構造予測、自動化、インフォマティックス、など)

研究内容

新規機能性色素-ナノカ-ボン複合材料の開発

近年のエネルギー問題や環境問題より、豊富でクリーンな太陽光線からのエネルギー変換システムが求められています。そこで、太陽光エネルギーから効率良く電子移動を起こして光合成を行うクロロフィルに着目し、その類縁体であるポルフィリノイド色素を利用した機能性材料の開発を行っています。また、カーボンナノチューブやフラーレンなど広がったπ電子系を持つナノカーボン類と機能性色素との新規なハイブリッド材料の開発に取り組み、分子設計と合成、光学的性質や電子状態などの物性評価、応用性の検討を行っています。

炭素ナノ材料の可溶化を指向した新規化学修飾反応の開発

C60, C70などのフラーレンやカーボンナノチューブなどの炭素ナノ材料は、電子機能材料として有望な材料ですが、そのままでは汎用有機溶剤に対する溶解性に乏しく薄膜などへの成型加工が困難なため、可溶化を目指した官能基の化学修飾を行なっています。 これまでに有機薄膜太陽電池用アクセプター材料として一連のメタノフラーレン誘導体を開発してきており、また、光反応性の置換基を有する化合物とフラーレンを光化学反応させることで、より効率よく選択的にフラーレンの化学修飾反応を起こす反応系の構築を目指しています。

フローマイクロリアクターを利用した高選択的合成法の開発

マイクロリアクターは数μmから数百μm程度の微細流路を持つ微小な反応容器ではありますが、フロー方式(連続送液)で使用するため大量製造にも適用可能であり、研究室におさまるような小型の反応装置を用い年間数千トン規模での製造も見込まれています。生産量は製造設備の大きさによるものではなく、送液時間に対応して増やすことができるため、生産量のコントロールも容易に行うことができます。つまり、実験室での研究段階から工業的生産への移行が容易で、研究開発段階から実生産までの期間が大幅に短縮されると考えられることから、プロセス開発の面からも注目を集めています。さらに、反応装置そのものが非常に小さく、発熱反応における温度制御や、爆発などの危険性を伴う合成反応をより安全に行なうこともできるため、都市型産業として適しているものと考えられています。
本研究室では、マイクロリアクターによるフロー・マイクロ合成の手法を用いて、有機金属試薬を利用した合成反応開発や、逐次反応制御を目的とした有機薄膜太陽電池材料合成の選択性の改善について取り組んでいます。

マイクロリアクターの特徴

フローマイクロリアクターが利用される分野

計算化学を活用した有機分子の効率的設計法の開発

化成品の開発において、目的とする機能を持つ最適な分子構造を設計することは、開発の成功を左右する重要なプロセスの一つです。本研究室では計算化学を活用した分子シミュレーションにより物性を予測し、効率的に分子設計を行う技術の開発に取り組んでいます。これにより実験を行う前にターゲットを絞り込むことができ、開発期間やコストの削減が期待されます。計算による物性予測では煩雑な作業工程が必要ですが、本研究室では自動化技術により誘電率や弾性率、熱膨張率、吸収スペクトルなどを迅速に予測するシステムの開発を進めています。また、インフォマティクス技術を併用して膨大な化合物群を高速にスクリーニングし、高性能な有機半導体の設計に反映させる研究を行いました。

有機太陽電池用材料の効率的合成法の開発

太陽電池システムは化石資源の枯渇によるエネルギー危機や二酸化炭素量の増大・地球温暖化等の環境問題の解決策として重要視されています。なかでも有機薄膜太陽電池は、軽量・柔軟性・予見される安価な製造コストゆえに、ポストシリコン太陽電池として注目されています。メタノフラーレンの一種である[6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester(PCBM)と導電性高分子から成るバルクヘテロ接合型のデバイスが報告されて以来、デバイスの改良や長波長まで吸収するドナー材料の開発により、変換効率は向上しており、年では8%を超える変換効率が報告されるようになりました。一方でアクセプター材料はフラーレン誘導体の検討が図られているものの、PCBMが標準的材料として広く用いられているのが現状です。
本研究室ではアクセプター材料PCBMの大量合成を見据えた検討を行っており、禁水条件を必要としない合成法、付加前駆体としてイオウイリドを利用する合成法、マイクロリアクターを利用する方法などにより、短工程・温和な反応条件・高収率で製造できる合成法を見出しています。
最近では、フラーレンの可視光吸収特性および電子媒介特性を利用することで、PCBMを含むメタノフラーレン誘導体の新たな光合成法の開発に成功しました。本手法は白熱灯やLEDといった室内光源だけでなく太陽光も利用でき、環境調和型な合成手法といえます。


機能性リン化合物の合成と応用

有機リン化合物は、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤等の樹脂添加剤として幅広い用途を有するため工業材料として重要です。有機リン系難燃剤はハロゲン系難燃剤の代替として注目されていますが、これまで有機リン系難燃剤の中間体製造においては、金属塩の触媒存在下、180℃を超える高温・長時間の反応が必要とされており、より効率的な製造プロセス開発が求められてきました。本研究室では、超強酸を触媒として用いることで、約半分の反応時間および120℃の温和な反応温度で効率良く製造できる合成法の開発に成功しました。さらに触媒のリサイクルが可能な固体酸触媒も見出しました。

有機亜鉛試薬を用いた付加反応やカップリング反応



医薬品・有機機能性材料をはじめ、多くの化成品の製造過程において金属試薬は必ずといって良いほどいずれかの工程で使用されているといえます。その工程は非常に重要であり、化成品製造の効率やコストに大きく影響を与えるものです。しかし、金属試薬の中にはリチウム試薬など発火し易く取り扱いに注意を要するものもあり、金属試薬を用いた安全で有用な製造方法の開発がコストの削減や高付加価値製品の開発の面から期待されています。また、多段階を経て合成するような複雑な構造を持つ化合物であるほど、分子内に存在する他の官能基への影響を考えつつ合成ルートや用いる試薬を考慮しなければなりません。そのため様々な官能基を有する有機金属試薬の利用は非常に有用性が高く、その調製法の開発や合成への応用が強く求められています。なかでも、このような官能基共存性の高い有機金属試薬の代表例として有機亜鉛試薬をあげることができます。
本研究室では金属試薬を用いた安全で有用な合成反応の開発を進めており、その一環として金属亜鉛からの有機亜鉛試薬の調製と有機合成反応への応用を検討しています。これまでに、金属亜鉛を介した有機ハロゲン化物とカルボニル化合物の反応に着目し、クロロトリメチルシラン(TMSCl)を活性化剤とした反応やカルボニル化合物のオレフィン化反応を開発してきました。また、有機亜鉛試薬を用いたアルデヒドおよびイミンとのRemote-Reformatsky型の反応によるアルコール、アミンの合成やパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を開発してきました。

研究成果


論文、著書、解説

  1.   Y. Takao, T. Masuoka, K. Yamamoto, T. Mizutani, F. Matsumoto, K. Moriwaki, K. Hida, T. Iwai, T. Ito, T. Mizuno, and T. Ohno, “Synthesis and properties of novel fluorinated subnaphthalocyanines for organic photovoltaic cells”, Tetrahedron Lett., 2014, 55, 4564-4567.
  2.   Y. Takao, F. Matsumoto, K. Moriwaki, T. Mizuno, T. Ohno and J. Setsune, “Preparation of copper complexes coordinated by N21,N22-etheno bridged porphyrin and the application to photooxidation of phenol derivatives” Journal of Porphyrins and Phthalocyanines, 2015, 19, 786-793.
  3.   T. Iwai, F. Matsumoto, K. Hida, K. Moriwaki, Y. Takao, T. Ito, T. Mizuno, T. Ohno, "Facile Synthesis of Methanofullerenes in an Aqueous Two-Phase System under Photoirradiation Conditions", Synlett, 2015, 26, 960-964.
  4.   F. Matsumoto, T. Iwai, K. Moriwaki, Y. Takao, T. Ito, T. Mizuno, T. Ohno, "Controlling the Polarity of Fullerene Derivatives to Optimize Nanomorphology in Blend Films", ACS Applied Materials & Interfaces, 8(7) 4803-4810 (2016)
  5.   高尾優子, “有機太陽電池材料を目指した新規ポルフィリノイド系有機半導体の開発”, 機能性色素の新規合成・実用化動向, シーエムシー出版, 182-195 (2016).
  6.   高尾優子,大野敏信, “サブナフタロシアニン系有機半導体材料の開発”, 科学と工業, 90(11), 361-382 (2016).
  7.   岩井利之, 伊藤貴敏, “有機薄膜太陽電池用標準アクセプター材料:フラーレン誘導体(PCBM)の最新合成法”, 科学と工業, 92(6), 155-161 (2018).
  8.   高尾優子, “ポルフィリノイド系錯体色素を応用した光酸化反応”, 科学と工業, 92(8), 224-232 (2018).
  9.   Y. Takao, K. Moriwaki, T. Mizuno, T. Ohno, “Monocationic porphyrin dyads with fullerene as the electron-accepting material”, Journal of Porphyrins and Phthalocyanines, 2019, 23, 1535-1541.
  10.  F. Matsumoto, S. Sumino, T. Iwai, T. Ito, "Regioselectivity enhancement in synthesis of [70]fullerene derivatives by introduction of a branched structure", Organic & biomolecular chemistry 17(10) 2629-2634 (2019)
  11.  岩井利之, 伊藤貴敏, “有機薄膜太陽電池の高効率化を指向した選択的C60およびC70 フラーレン誘導体(PCBM)製造法の開発”, ファインケミカル, 2020, 49(11), 21-29.
  12.  S. Sumino, F. Matsumoto, T. Iwai, T. Ito, “Methanofullerene Synthesis via Photogenerated Fullerene Radical Anion Intermediates”, Journal of Organic Chemistry (2021), 86(12), 8500-8507
  13.  F. Matsumoto, S. Sumino, T. Iwai, T. Ito、”Design of Linearly Substituted Fullerene Bis-Adducts with High Dielectric Constants Based on Theoretical Calculations”、Bulletin of the Chemical Society of Japan, 94(7) 1833-1839 (2021)
  14.  S. Sumino, I. Ryu, “Pd-Mediated Light-Controlled Living Radical Polymerization of Methyl Acrylate”, Bulletin of the Chemical Society of Japan (2022), 95(11), 1532-1536

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テクニカルシート・事例集

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テクニカルシート/事例集Noタイトル
テクニカルシート 23-04 有機分子の相転移挙動の計算機シミュレーション
テクニカルシート 23-03 計算機シミュレーションによる有機分子の屈折率・誘電率の予測
テクニカルシート 22-07 分子物性シミュレーション
テクニカルシート 21-07 質量分析法を用いた差異解析
テクニカルシート 21-06 質量分析法による混合物の測定 ― 分離装置の違いによる検出化合物の比較 ―
テクニカルシート 21-05 大気圧固体試料プローブによる食品用ラップフィルム可塑剤の迅速質量分析
テクニカルシート 20-17 網羅的分析を可能にする質量分析システム
テクニカルシート 20-16 固体・液体試料測定用核磁気共鳴(NMR)システム―400 MHz NMR―
テクニカルシート 19-16 有機元素分析装置による有機物の 炭素・水素・窒素・硫黄/酸素含有率測定 
テクニカルシート 18-19 前処理なしで質量分析ができるDART/TOFMS
事例集 116 高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いた分析
事例集 69 水溶液中の有機構造解析
事例集 65 核磁気共鳴装置―600MHz NMR―
事例集 62 有機元素分析(CHN元素分析)による製品評価
事例集 19 ガスクロマトグラフ(GC)を用いた分析
事例集 18 ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いた分析
事例集 9 NMR(核磁気共鳴)を中心とした有機物の構造解析
事例集 8 MALDI/TOF-MSを用いた有機機能材料の質量分析
事例集 2 DSC(示差走査熱量測定)による熱的物性の分析
事例集 1 ATR装置(Durascope)を用いた赤外分光分析(FTIR)による微量分析